スタートアップのためのPR会社
ベンチャー広報の野澤です。
今回は、PR会社の業界地図について解説します。
PR会社で働きたいと思った時、どの会社を選ぶか迷いますよね。何しろ、日本には業界団体に属しているPR会社だけでも500社以上、大手から中堅中小まで、さまざまな特徴をもった会社がありますから。
PR会社で働くなら、やりたい仕事ができて自分のキャリアにプラスになる会社を選ぶべきだと思います。そのためには、PR業界にどんな会社があるのかを知る必要があります。
PR会社といっても色々です。やっていることも、マスコミ広報、戦略PR、デジタルやソーシャルメディア、イベント、危機管理広報など、会社によってさまざまです。また、美容や食品、医療、エンタメなど、業界特化型のPR会社もあります。
また、これはどの業界もそうですが、ここに入ったらやばいという、ブラック企業的な会社もあります。
業界地図の説明
この業界地図は、僕が独自の基準で選んだ35のPR会社を、会社が設立された年と社員数という2つの軸でプロットしたものです。★印がついているのは、上場している会社です。

縦軸は会社の設立年で、上から設立年が古い順になってます。一番上が1960年で一番下が2020年です。なので、この表の上から下まで60年の幅があるということですね。
横軸が社員数。左から社員数の多い順になっています。左から右まで1,000名以上の幅があります。設立年や社員数は、各社のホームページなどネット上にある公開情報を使っています。
ここにあるPR会社は、規模感で大きく3つに分けられます。
左側3分の1が、いわゆる大手総合PR会社。社員数300名以上の会社です。それに続くのが、社員数200名くらいまでの中堅PR会社。真ん中より右側は、社員数50名未満の小規模な会社になります。
※以下、個別の会社に言及する場合、敬称は省略しました。
大手総合PR会社
日本の大手PR会社といった場合、ベクトル、サニーサイドアップ、プラップジャパン、共同ピーアール、電通PRコンサルティング、マテリアルの6社になるでしょう。
これらの総合PR会社は、メディアプロモートから、イベント、ソーシャルメディア、戦略PR、危機管理まで、幅広いサービスを提供しています。
1、株式会社ベクトル
ベクトルは言わずと知れた業界NO1企業です。社員数1650人、年間売上592億円。この売上規模は日本国内でぶっちぎりの1位ですが、アジアで最大、世界でも6位にランクインしています。
そんなベクトルですが、会社の設立は1993年で、実は、PR業界では新興企業です。後発にもかかわらず業界トップになれた要因は「従来のPR会社の枠にとらわれない事業展開」にあります。
「社会やステークホルダーとの関係構築」という王道のパブリックリレーションズだけでなく、売上や利益に直結するマーケティング寄りのPR活動を行うことで、企業の広告宣伝部や広告代理店から案件を受注して売上を伸ばしてきました。
最近では「モノを広めるFASTCOMPANY構想」を打ち出しています。
これは「生活者に届けたい情報を迅速かつ低コストで届けるためのPRモデル」のことで、具体的には、PRを起点に、SNS、インフルエンサー、動画、デジタル広告を組み合わせたコミュニケーション戦略です。直近では、インフルエンサーマーケティングと縦型ショート動画に注力しています。
2、株式会社サニーサイドアップグループ
サニーサイドアップは売上高で国内2位のPR会社です。2025年6月期の決算では売上・利益とも過去最高を更新しました。
1985年に設立された同社の原点はスポーツ選手のマネジメント業務です。Jリーグ発足に合わせて、中田英寿さん、前園真聖さんなどサッカー選手のマネージメントなどで急成長しました。中田英寿さんは現在、同社の執行役員をしています。
2020年にホールディングス経営体制に移行。PR事業を中核に、デジタルやクリエイティブなど7のグループ会社全体で、総合PR会社としての機能を提供しています。
PR事業ではコスメ・ファッション、食品・飲料、商業施設・ホテルのクライアントが全体の約半分です。「麻布台ヒルズ」「東急プラザ原宿・ハラカド」「渋谷サクラステージ」「TAKANAWA GATEWAY CITY」など大型施設の開業PRの実績が多数あります。
その他、フードブランディング事業として世界一の朝食として知られる「bills」を運営しているのも特徴的です。
3、共同ピーアール株式会社
1964年に創業された老舗のPR会社です。「カラーシャツ」や「消費者金融」といった言葉を広く根付かせた実績があります。2005年3月にPR会社として日本ではじめて上場企業になりました。 実はプラップジャパンの上場が2005年7月で、この2社はほぼ同時期に上場しています。
クライアント企業の業種としては、IT・情報通信・テクノロジー関連が30%で最も多く、次に多いのが、官公庁・地方自治体・各種団体となっています。また、クライアントのうち40%は外資系企業です。
2024年8月に米大手ロビー会社「バラード・パートナーズ」と提携し、パブリック・アフェアーズやガバメント・リレーションズ活動にも注力しています。
また直近で、広報業務に特化したAIサービス「AI-Press」、広報担当者と報道関係者をつなぐ!メディアマッチングサービス「Kyodo PR connect」をローンチするなど、新しい取り組みにも積極的です。
4、株式会社プラップジャパン
1970年に創業された独立系総合PR会社で、海外に強いのが特徴です。現在、プラップジャパンの売上の約30%は海外事業で、これは他のPR会社に比べると非常に高いです。
中国と東南アジアを中心に、日本市場に進出する海外企業とアジア市場に進出する日本企業、両方の支援を行っています。日本のPR会社でありながら、英語を使った仕事が多いというのが特徴です。
一方、デジタル関連の売上比率は約11%とあまり高くありません。求職者から見ると、SNSやインフルエンサー、動画を使った最先端の広報PRをやりたい方には、ミスマッチになる可能性があります。
5、株式会社 電通PRコンサルティング
1961年に創業され、60年を超える歴史を持つPR業界のパイオニア的存在です。電通グループ傘下として、広告代理店と密接に連携した総合的なPRを展開しています
大手企業や官公庁案件を数多く担当できる規模感と体制があり、大規模プロジェクトへの対応力の高さが特徴です。実際に、P&G、大和ハウス、ライオン、スターバックス、日本赤十字など有名企業のPR案件を手がけています。
こういったナショナルクライアント案件に関わってみたい方にはおすすめのPR会社です。
6、マテリアルグループ株式会社
2005年設立と業界の中では比較的新しい会社ですが、2025年8月期にはグループ売上が60億円を超える見通しです。これは、2000年以降に設立されたPR会社の中では最大規模。2024年3月に東証グロース市場に上場を果たしました。
「PR発想をコアとしたマーケティング支援会社」を標榜し、PRコンサルティングをコア事業としながら、デジタルマーケティングに注力。TikTok Shop活用のプロモーションやショートドラマ制作・広告運用など、デジタル領域でのPR実績が増えています。
M&Aにも積極的な会社で、2023年11月には、グローバル案件実行に必要な知見やスキルの獲得を目的に、海外政府及び外資系企業のインバウンドPR支援を行うキャンドルウィック株式会社を子会社化しました。
※中堅中小のPR会社については、野澤のYouTubeチャンネルで解説しています。興味のある方は動画をごらんください。
PR会社選びのコツ
PR業界の全体像を理解できたところで、実際に自分がPR会社で働く場合、どのような点を意識して会社選びをすべきかを解説します。
大手総合PR会社
大手PR会社の場合、クライアントも日本を代表するメジャーな会社であることが多いですから、知名度の高い有名企業のPRに携わることができます。これが大手PR会社で働く最大のメリットです。
一方、一般的に、大手PR会社は分業制ですから、スタッフは特定の業務だけを歯車のようにこなさなければならず、広報PRについて、総合的な知見を得るには時間がかかるかもしれません。
ただ、上場している大手PR会社は社会的信用力もあるし、ガバナンスもしっかりしているので一定の安心感はあります。新卒や若手の方が、PRパーソンのキャリアの入り口として、最初の経験をつむには大手PR会社が良いと思います。
中堅以下のPR会社
中堅以下のPR会社の場合には、会社ごとに特色がありますから、PRしたい領域や自分のやりたい仕事内容が明確な場合には、中堅以下のPR会社がおすすめです。
実力があれば出世も早いですし、大手PR会社よりも自分のやりたい仕事ができる確率は高いでしょう。広報PRの未経験者というよりは、事業会社の広報や他のPR会社で経験を積んだうえで転職するのがおすすめです。
小規模なPR会社
小規模なPR会社の場合、大企業のように組織化されていませんから、色々な仕事をひとりで何役もこなさなければならないケースもあります。これは大変ですが、逆にいえば、広報PRの仕事を幅広く経験できるというメリットでもあります。
ただし、小さい会社の場合、社会保険が整備されていない、経営が不安定、会社に信用力がないので住宅ローンが組めない、ワンマン社長のブラック企業、といったリスクがありますので注意が必要です。
古い会社と新しい会社
あとは、社歴についてですが、社歴が長い、いわゆる老舗の会社は、幹部社員も高齢ですから、どうしても社風や広報への考え方が古くなりがちです。
もし、デジタルやソーシャルメディア、動画など、最先端の広報PRがやりたいなら、2000年以降に設立された新しい会社を選んだ方がいいと思います。
ただ、老舗PR会社にも良いところはあります。それは会社としての信頼と安定感です。社歴が長い=多くのクライアントから長く信頼されてきた証ですからね。
逆に社歴が数年の新興PR会社は、数年後には倒産している可能性すらあります。
まとめ
僕は、誰にとっても良いPR会社、悪いPR会社というのはないと思います。あるのは、自分にとって良い会社か、悪い会社かだけです。言いかえれば、そのPR会社が自分に合うか合わないか、相性がいいかどうかです。恋愛や結婚と一緒ですね。
例えば、PRパーソン1年生と広報経験10年以上のベテランでは、当然、選ぶべき会社は異なります。
あなたが20代の若手なら、毎日終電までハードワークするPR会社を選ぶのも悪くありません。多くの実務をこなすことで、短期間にPRパーソンとして成長できる可能性がありますから。
でもあなたが、30代40代で子育て中なら、ワークライフバランス重視で働けるPR会社を選ぶべきでしょう。
PR未経験者であれば、まずは大手PR会社を目指してみるのがいいのではないでしょうか。なぜなら、一般的に大手の方が教育制度が整っているからです。
PR会社で数年働けば、自分のやりたいことが見えてくると思います。PR会社でどんな仕事をしたいかは、会社選びにおいて重要な要素です。
美容や食品、医療、エンタメなど、自分がやりたいPRの領域が決まっていれば、ブティック型のPR会社がいいでしょうし、デジタルやソーシャルメディアなど最先端の広報PRをやりたいならそれ専門の会社を選ぶべきです。
逆に、オーソドックスな広報を身につけたいなら老舗PR会社がいいかもしれません。グローバルなPRをやりたいなら、外資系PR会社という選択肢もあるわけです。あとは、PR会社で数年経験を積めば、事業会社の広報に転身するという選択肢もあります。
同じPR会社で数年働いて、そこでの仕事に満足しているのであれば、そこがあなたに合っている会社だからです。もし、よりアグレッシブにキャリアアップするなら、独立して、フリーランスのPRパーソンになるか、自分でPR会社を起業するという選択肢もあります。
ぜひ自分にあったPR会社を見つけてください。



























