『東スポ』記事のニュースバリューを分析してみた!
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『東スポ』記事のニュースバリューを分析してみた!

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株式会社ベンチャー広報
代表取締役の野澤直人です。

昨年末、『東スポWeb』で興味深い報道がありましたね。このネタがなぜ記事になったのか、そのニュースバリュー(報道価値)について、野澤なりに分析してみたいと思います。

テレ東「WBS」が「報ステ」に挑戦状!来年4月午後10時枠へ移動の〝勝算〟

まず注目は、冒頭の「ワールドビジネスサテライト(WBS)が、現在の平日午後11時枠から、来年4月に平日午後10時枠への移動で調整していることが本紙の取材で分かった」の“本紙の取材で分かった”という部分。これはこの報道が東スポのスクープだという意味です。

まだ他のマスコミが報道していない独自情報ですから、プレスリリースで一斉配信された情報などとは異なり、その報道価値は高いといえます。ただし、スクープ・独自情報だからといって、必ずしも報道に値するわけではありません。

「テレ東・WBSの放送時間が変更になる(かもしれない)」という話題は、テレビ関係者やわれわれ広報関係者にとっては大ニュースかもしれませんが、『東スポ』を読んでいる一般読者にとっては、それほど関心は高くないネタでしょう。スクープかどうか以前に、このネタに「本質的なニュース価値があるかどうか」が重要なんです。

そこで、この記事では単に、テレ東・WBSの放送時間変更という事実をただストレートに報じるだけなく、そこに複数のニュース価値を追加しています。まず記事の書き出しを見てください。「百合子さんもビックリ!?」となっています。そして記事についている写真も小池百合子都知事です。

ところが記事を読むと、小池都知事はこの記事の中核となるテーマとはあまり関係がありません。なのになぜそこにフォーカスするのか。それは「話題性」というニュース価値を追加するためです(まあやや無理筋ではありますが・笑。これはいかにもスポーツ紙っぽいですね)。

このコロナ禍の中で、小池都知事の言動は常に注目されています。だから記者としてはそこに乗っかりたいわけですね。「百合子さんもビックリ!?」という記事の書き出しにして小池都知事の写真を掲載することで、一般読者が注目して記事を読んでくれることを狙っています。小池都知事がWBSのキャスターをしていたことを知らない一般読者にとっては「へえ~」ってなりますしね。

ちなみに、写真のキャプションも興味深いです。「WBS初代メインキャスターは小池百合子氏だった」。小池都知事ではなく“小池百合子氏”となっています。この記事では都知事としての小池氏ではなく、個人としての小池氏について書いていますから、こういう表記になるわけです。マスコミというのはこういう細部にもこだわって記事を作っています。

記事の終盤には、テレビ朝日系「報道ステーション」の話が出てきます。「報ステ」といえば、最近、誤報で謝罪に追い込まれたばかり。

テレ朝、安倍前首相を事情聴取と誤報 「報ステ」で謝罪

この誤報の記事が出たのが12月18日で「テレ東・WBSの放送時間が変更」の記事がその直後に出ているのは偶然ではないと思います。

マスコミは「そのネタをなぜ今、報道すべきなのか」「どのタイミングで報道すべきか」ということをとても気にします。「報ステ」がチョンボをした直後だからこそ、この記事で書かれている「加えてライバル(「報ステ」)は今年、評価がガタ落ちした」という文脈にもより説得力が出てくるわけです。これは「時事性」というニュース価値を追加するという意図があります。

整理すると、この1本の記事にはニュースバリューのポイントが複数あることがわかります。
・独自性:本紙の取材で分かった=スクープである
・意外性:32年間、WBSの放送枠はずっと午後11時枠だったのに何故今変更?
・時事性:先日も誤報で謝罪した「報ステ」の枠にWBSが進出
・話題性:WBSは昨今注目の小池百合子氏が初代のキャスターであった
「ニュースバリューのポイントが複数ある」これはとても重要で、マスコミはこれをとても意識しています。

ぜひ皆さんもプレスリリースを書くときに、なるべく複数のニュースバリューが入るように工夫してください。そのほうが報道されやすくなります。

新聞記者なんかは、プレスリリースを読んだときに、そこに含まれるニュースバリューの数を麻雀に例えて「もう1翻(イーハン)足りないな」「あと1翻(イーハン)あると記事にしやすいんだけどね」とか言ったりします。麻雀では、4翻あると(つまり役が4つあると)満貫という高得点になります。新聞記事も一緒でニュースバリューが4つ以上含まれていると記事になりやすいみたいですね。

なお、この記事でははこんな一文を入れて、ちゃっかりエクスキューズもしています。
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テレ東の総合編成局宣伝部は本紙取材に「4月編成について、現時点で決定していることはございません」と、「現時点で」の断りを入れて回答。複数の関係者の話を総合すると調整していることは事実で、現在は「確定」ではなく「内定」の段階という。
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こう書いておけば、後で誤報になることはないですし、テレ東からクレームが来ることもないですから。そういう点も含めて、この記事はよく出来ていると思います。

結局、2021年1月25日に行われた4月改編発表会見にて、1990年以来の「23時スタート」から31年ぶりの枠移動が、テレビ東京側から正式に発表されました。「日付以外は全て誤報」と揶揄されることもある東スポさんですが、今回はちゃんとしたスクープでしたね!

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記事の執筆者
野澤直人
野澤 直人
代表取締役

大学卒業後、経営情報サービス会社に入社。マスコミ業界に転じ、ビジネス誌の編集責任者としてベンチャー経営者500人以上を取材。その後、海外留学関連のベンチャー企業に参画し、広報部門をゼロから立ち上げ、同社の急成長に貢献する。2010年に株式会社ベンチャー広報を創業。以来10年間でクライアント企業は400社を超える。著書に『【小さな会社】逆襲の広報PR術』(すばる舎)。

記事の執筆者
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