緊急テーマ・広報には“攻め”と“守り”がある

緊急テーマ・広報には“攻め”と“守り”がある

スタートアップのためのPR会社
株式会社ベンチャー広報の三上です。

2020年3月現在、新型コロナウイルスの国内感染がおさまりません。既に私たちの周りにも様々な危機が迫っています。

これまで皆さんには、広報PRの“攻め”について解説してきました。これは平時の広報PR活動です。しかし皆さんの役目として、有事の広報PR活動である“守り”もあることを知って頂くことも重要と考え、この基本について解説していきます。広報学的に言うと、“守りの広報”はコーポレートコミュニケーションの分野に入ります。

皆さんのこれまでの役割として、自社製品やサービスをメディアを通じて、報道させターゲットであるtoBやtoCに訴求した結果、販促・営業促進の一助として活動しています。これはマーケティングコミュニケーションの分野に入ります。

私の経験では、“守りの広報”はコーポレートコミュニケーションの重要な一つとして考えられます。

1)危機管理の重要性について

  • 「リスク」と「危機」の違い

想定されるリスクには、大きく分けて、「外因的リスク」と「内因的リスク」があります。

今回のウイルス感染や自然災害、サイバー&リアルなテロ攻撃は「外因的リスク」になります。「内因的なリスク」には、事件、事故、財務の失敗、経営・戦略(株主代表訴訟、企業買収海外進出)、不祥事などとなります。

では「リスク」と「危機」の違いは分かりますか?「リスク」とは、企業が火災を「リスク」として洗い出し、リスク管理の中で防火対策を策定し、実施していきます。それでも火災が発生することがあります。火災という「リスク」が発生・顕在化することが「危機」となります。

「危機」が発生した時の対応が危機管理です。危機を制御化におさめ、損失の最小化をはかり、収束後の円滑な復旧活動までを危機管理=クライシスマネジメントとも呼びます。

  • 守りの広報の基本とは

まずは未然に防ぐことが最優先です。リスクを未然に防ぐためには、トップから現場までリスク認識が共有されていることが最も重要です。特に経営陣は危機への意識を高く持ち、敏感に反応し率先して対応することが必要になります。リスクを未然に防止するために、まずは危機管理プロジェクト(委員会)など、平常時のリスク管理を行う組織を整備していきます。

社内横断的組織であることが必要で、メンバーには広報セクションも入ります。スタートアップや中小企業の小規模組織であれば社長、役員、広報でも大丈夫です。

危機管理プロジェクトを立ち上げたら、
(1)潜在・予測されるリスクの洗い出し
(2)重要度や発生予想頻度などの整理・分析
(3)危機に強い体制を整える《関連セミナー受講、社内勉強会、専門書による情報収集、メディアトレーニングなど》※緊急時の連絡網の整備と最終判断者の決定も大切になります。
(4)危機管理広報マニュアルの作成。又はリスク表とチェックリストの作成を行う。

なかでも、(1)の潜在・予測されるリスクの洗い出しにおいては、外部に情報源をおく「社会的リスク」と企業固有の「経営的リスク」の収集がポイントになります。

「社会的リスク」には、
1.社会の情勢・動向
2.官公庁発表の情報
3.既存メディアからの情報《特にソーシャルメディア上においてリスクが発生した際には、情報伝達のスピードが速いため、従来より迅速な対応が求められます。》

また、「経営的リスク」には、
1.企業(お客様相談窓口)への問い合わせ・クレーム件数・内容
2.SNSでの風評
3.取引関係筋からの問い合わせ・クレーム件数・内容などがあげられる。

個々の想定リスクへの未然防止策を策定したら、さらに防止のための社内体制や手順、役割分担などを明確にしておき、これらをまとめてリスク管理マニュアル等を作成する。

早期にトップまでの伝達法・経路や報告基準を策定するとともに、発生した事案ごとに、どのような対応を取るのかを、リスク管理マニュアルに定めることも重要になります。

2)的確な危機対応について

  • 主な対応策とは

緊急事態に直面したら、企業の姿勢や対応で、企業の真価が問われます。内因的なリスクの場合は、事実を隠蔽すると、さらに信頼を失うことにつながります。大企業もスタートアップ企業も存続さえ危ぶまれるケースも過去にありました。

適切な対応でダメージを最小限に留めるだけでなく、早期に信頼回復も可能にもなります。

一般的な対応策は下記となります。私の経験では、(1)現状把握、情報収集の徹底が最も重要と感じています。得た情報は関係者全員で共有することも大切です。

(1)現状把握(いつ、どこで、何が起きたのか、経緯、被害の範囲など)
(2)原因
(3)責任の所在
(4)喫緊の安全策・対応策(追加リスクの有無)
(5)企業の方針(情報開示の判断、ありの場合の発信方法、謝罪の仕方も含め、企業としてどうコメントするか)
(6)今後の方針・再発防止策

これらの情報は一括して「情報ファイル」にまとめる。時系列的に記録し整理していく。

次に、開示・公表の選択の判断となります。

危機情報について、「開示する」「開示しない」の二つの判断となります。案件ごとに判断が必要となります。開示判断は、ステークホルダーに対する影響の軽量はもちろん、時代・社会背景、報道状況、法令、監督官庁や警察・保健所等助言などがあげられます。これら総合的に検討、シュミレーションしたうえで判断していきます。その際、リーガルチェックを忘れずに行うことも重要です。

危機の開示の判断は、“想像力”が問われます。つまり、想定外に直面することが多々あります。事案が複雑、外因的要素が大きいほど、想定内で収まるケースはないと言っても過言ではありません。また情報開示の中には、メディア開示後、全国紙・社会面記事下広告面でのイベント中止、お詫び広告、商品リコールなどについて掲示が可能です。こちらの事例広告は、コメント・リリース作成・取材対応時に大変参考になりますので、皆さんも情報取集されることをお勧めします。ちなみにこちらの広告出稿申し込みは、広告代理店となります。

  • 広報が報道リスクのランクづけも役割に

広報は、報道リスクランクの評価も決定します。危機の重篤度・深刻さの順位となります。
外的・内的、人的・物的被害の大きさが経営に与えるダメージを予測して、深刻度を判断していきます。ちなみに現在の新型ウイルス問題は、被害拡大or終息と全く予想がつかない案件となります。社会情勢や各省庁・行政の取組、業界動向を踏まえて判断せざるを得ない認識です。

  • キーメッセージの重要性について

前記での(5)企業の方針の中に、広報の重要な役割に、キーメッセージの用意と徹底があります。メッセージは、直面する危機に関して企業が世に伝えたい情報のポイントを簡潔に箇条書きにした文言です。

一例としは・・・
◎謝罪
◎危機に対する会社のスタンス(考えや思い)
◎再発防止策
◎被害者への対応
◎会社の理念
などとなります。

広報が基本文言を作成のうえで、代表者や広報担当役員が決定していきます。これが決定したら、問い合わせ、プレスリリース、インタビュー取材時、ホームページでの掲示などを通じ、徹底的に話(発信)をしていきます。

  • ある日、突然知らない記者から問い合わせが!?

もう一つ大事な点を解説します。危機対応時は、これまでコミュニケーションのある記者の他に、面識のない記者にも対応しなければなりません。日頃、製品・サービスの情報発信している場合は、皆さんの業界を担当されている新聞の経済や生活セクション、雑誌・テレビ・webはビジネス・情報系メディアが主流となります。

しかし、危機情報については、全くコミュニケーションのない、新聞なら社会部セクション、雑誌・テレビは、ニュース報道系のいわゆる事件・事故担当記者が、突然問い合わせが入ります。瞬時にコメントを求められたり、社長への取材申し込みなど、怒涛の問い合わせが舞い込みます。場合によっては、直ぐ緊急記者会見の設営も視野にいれなければなりません。

全体の状況を的確に判断し、速やかな対応が望まれます。

最もセンスティブなのが、WEBメディアやSNSのソーシャルメディア対応です。対応が遅れる、不適切ワードなどが発生すると、即座に炎上します。過度に炎上を怖がるのではなく、事実関係をきちんと確認・検証した上で、会社としてどのように対応すべきか、静観することを含めて検討する必要がある。 これらはメディアトレーニングの経験があれば、対処法も深く理解できます。

  • 私の考えられる的確な広報対応とは・・・

私も、過去に大手の食パンメーカー、繊維・化学系素材メーカー、玩具メーカー、外資系化粧品メーカー、鉄道系ホテル運営会社など、数多く対応してきました。これらの経験を通じ感じたことは、マニュアルに該当しないケースが多く発生します。

今回の新型コロナウイルス問題で、私が現在対応している事項について少しお伝え致します。自社のイベント運営や教育系運営会社のクライアントなどを対応しています。イベントの実施判断、リモート対応等の制約条件での開催、イベント延期などを判断しています。

この場合・・・

<情報収集を徹底する>
マスメディア報道、業界関連企業のサイト、リリース配信会社内での情報、知り合いのメディアからの情報・アドバイス、危機管理専用ポータルサイト、業界関係者などの情報取集となります。情報収集でお勧めなのが、日本経済新聞電子版の「速報」面内プレスリリース紹介コーナーがあります。時系列的に企業のプレスリリースが入手できますので、活用してみて下さい。

<情報開示の判断と配信手段の選択>
この場合、実施の有無を判断した後、メール、ホームページでの掲示、プレスリリースなどを決めていきます。私の場合は、イベントが小規模だったので、関係者へのメールレベルでの対応にしました。

<想定されるケースを視野に準備を進める>
次に、終息なのか拡散が広がるのか?自社内で罹患者発生した場合は?など、あらゆる想定を視野に入れた広報対応について検討・策定する流れとなります。

最後に、私が皆さんに有事=“守りの広報”において、お伝えしたいことを整理しますと・・・

  • 広報PRの分野には“守りの広報”が存在する
  • 有事は待ってもらえません。

待ったなしとなります。いかに平時にスキルアップし、いつでも対応できる社内体制を講じて下さい。

  • 有事は、“想像力”が必要となります。

いかに日々の業務で想像力を働かせ有事に備えられるかが問われます。

  • 平時の情報装備が重要に

できるだけ想定される様々な分野での対処法と報道事例を取集し、ファイリングをお勧めします。また、危機管理広報に関わる書籍も多く刊行されています。多くの事例があれば、イメージが浮かびやすいかと思います。

  • 相談できる広報PRパーソンやメディアブレーンをつくる

これは何度か面識を重ねた方や取材経験を重ねた方となります。親しい関係が築き上げた結果、ブレーンが生まれます。記者の場合は、すべての情報開示はNGです。一般論として相談ができれば、方向性を定めるヒントにはなります。

今回の解説で、必要な知識や体制についてぜひ考えるきっかけになって頂ければ幸いです。この分野は、広くかつ深い分野になります。

このブログを読んでの感想や広報活動で悩んでいる事、上司や仲間に“いまさら聞けない”広報について聞きたい事がありましたら、お気軽に下記のメールにご連絡下さい。

info@v-pr.net 三上宛

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記事の執筆者
三上毅一
三上 毅一
シニアPRコンサルタント・書籍プロデューサー

学校法人先端教育機構 事業構想大学院大学/地域活性と事業構想の特別講師。2019年より広報初心者のためのオンラインサロン「ゼロイチ広報」講師。PR業界歴36年。上場企業、中堅・ベンチャー企業問わず、戦略策定から広報担当者の育成までこなすベテランPRマン。豊富なマスコミ人脈を活かし広報PRの指南役として、BtoBからBtoC企業を幅広く担当、500社以上の実績を持つ。

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【媒体研究】4大ビジネス誌を攻略する
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