スタートアップのためのPR会社
ベンチャー広報の野澤です。
今回は「採用広報」について書きます。
「求人を出しても応募が来ない」「応募はあるけど、欲しい人材からの応募がない」ということ、ありませんか?
実は、この悩みの多くは、求人票の書き方の問題ではありません。求人票にたどり着く前の段階、つまり「そもそも御社のことが知られていない」「知られていても魅力が伝わっていない」ことが原因です。
そこで必要になるのが採用広報です。
僕はPR会社を15年以上経営する中で、たくさんの中小・ベンチャー企業の広報を支援してきました。その経験から、採用広報の基本と進め方をお話しします。
この記事の執筆者
野澤 直人(のざわ なおひと)
株式会社ベンチャー広報 代表取締役
ビジネス誌の編集責任者としてベンチャー経営者500人以上を取材後、海外留学関連のベンチャー企業で広報部門をゼロから立ち上げ。2010年に株式会社ベンチャー広報を創業し、以来スタートアップ・ベンチャー専門で400社以上の広報を支援。著書に『【小さな会社】逆襲の広報PR術』(すばる舎)。
採用広報とは?企業の魅力を伝え、採用につなげるための活動
結論から言うと、採用広報とは「自社の魅力や価値観を発信して、自社に合う人材との接点をつくる活動」です。
採用広報の目的と役割
採用広報の目的は、応募数を増やすことだけではありません。むしろ本質は「応募の質を上げること」と「採用ミスマッチを防ぐこと」にあります。
求人媒体にお金をかければ、応募数はある程度増やせます。でも、自社に合わない人が100人応募してきても、採用担当者の工数が奪われるだけですよね。
採用広報がやるべきことは、その手前の情報発信です。
- 会社が何を目指しているのか
- どんな人が、どんな想いで働いているのか
- どんな文化や価値観を大事にしているのか
こうした情報を継続的に発信しておくと、求職者は応募する前に「この会社、自分に合いそうだな」「ここはちょっと違うかも」と判断できるわけです。
正直に言うと、良い採用広報をやると、応募数は一時的に減ることもあります。合わない人が応募してこなくなるからです。でも、それでいいんです。合う人からの応募の割合が上がり、内定承諾率や入社後の定着率が改善する。これが採用広報の本当の成果です。
採用活動・採用ブランディング・企業広報との違い
似た言葉が多くて混乱しますよね。整理するとこうなります。
| 活動 | 目的 | 主な対象 | 役割 |
| 採用活動 | 人材の採用 | 応募者・候補者 | 募集、選考、内定出しなどの実務 |
| 採用広報 | 採用につながる情報発信 | 潜在層を含む求職者 | 企業の魅力や文化を伝え、応募意欲を高める |
| 採用ブランディング | 「働く場」としてのブランド構築 | 求職者・社員 | 採用市場における自社の立ち位置や戦略を設計する |
| 企業広報 | 企業全体の認知・信頼の向上 | 社会全体(顧客、メディア、株主など) | 事業や経営に関する情報発信 |
ポイントは、採用ブランディングが「戦略・設計図」で、採用広報が「その設計図を実行する情報発信活動」だということです。
ちなみに、企業広報と採用広報は別物のように見えて、実はつながっています。メディアに取り上げられた記事を見て「この会社、面白そうだな」と転職を考える人は本当に多い。僕たちが支援した企業でも、日経やテレビへの露出をきっかけに応募が増えたケースは珍しくありません。企業広報の成果は、そのまま採用力になるわけです。
なぜ今、採用広報が重要視されているのか
理由はシンプルです。企業が求職者を「選ぶ」時代から、求職者に「選ばれる」時代に変わったからです。
売り手市場で「選ばれる企業」になることが求められている
少子高齢化で生産年齢人口(15〜64歳)は減り続けています。有効求人倍率は高止まりし、特にエンジニアや専門職の採用は熾烈な奪い合いです。
この状況で、求人票を出して待っているだけの企業に、良い人材が来るでしょうか。来ません。断言できます。
大手企業なら、社名の知名度だけで応募が集まります。でも、中小・ベンチャー企業はそうはいきません。知名度で勝負できない会社こそ、自ら情報を発信して「うちはこういう会社です」と知ってもらう努力が必要なんです。
ひどい場合だと、良い事業をやっていて、良い人たちが働いているのに、外から見える情報がゼロという会社があります。求職者から見れば、情報が無い会社は「存在しない会社」と同じです。もったいないですよね。
求職者は求人票だけでなく企業の情報を見て応募を判断している
今の求職者は、応募する前に必ず企業のことを調べます。
- 採用サイトやコーポレートサイト
- 社長や社員のSNS
- noteやオウンドメディアの記事
- 口コミサイトの評判
- メディアに掲載された記事
給与や勤務地は求人票でわかります。でも、求職者が本当に知りたいのは「どんな人が働いているのか」「職場の雰囲気はどうか」「入社したら自分はどうなれるのか」です。これは求人票では伝わりません。
想像してみてください。条件がほぼ同じ2社があったとして、片方は求人票しか情報がない。もう片方は、社員インタビューが読めて、社長の考えが発信されていて、日々の様子がSNSで見える。あなたならどちらに応募しますか?
答えは明らかです。情報を出している会社が選ばれるということです。
採用競争の激化で企業の情報発信が欠かせなくなっている
同業他社との差別化も年々難しくなっています。給与や待遇の条件競争には限界がありますよね。資金力のある大手と同じ土俵で戦っても勝ち目はありません。
でも、「働く価値」や「企業らしさ」なら、規模に関係なく勝負できます。
- 裁量の大きさや成長スピード
- 経営者との距離の近さ
- 事業が社会に与えるインパクト
- 一緒に働く仲間の魅力
こうした魅力は、発信しなければ誰にも伝わりません。逆に言えば、きちんと発信すれば、条件面で大手に劣っていても選ばれる会社になれる。採用広報は、中小・ベンチャーにとって数少ない「大手に勝てる武器」なんです。
採用広報の重要性は理解できても、「何から始めればよいのかわからない」「自社に合った進め方が知りたい」と悩む企業も少なくありません。外部の力を借りる場合は、自社に合ったPR・広報パートナーを見極めるポイントを押さえておきましょう。
PR会社選定チェックリストを無料で配布しています
自社に合うPR会社を選ぶ際の確認事項、商談で聞くべき質問、見積もり比較の視点をチェックリスト形式でまとめた資料です。これからPR会社の選定を進める経営者・広報担当者の方は、ぜひご活用ください。
採用広報を始めるには?進め方を3つのステップで解説
採用広報は「整理→発信→改善」の3ステップで進めます。いきなり発信から始めたくなりますが、この順番を守れるかどうかで成果が大きく変わります。
STEP1|採用ターゲットと自社の魅力を整理する
最初にやるべきは、発信ではなく整理です。
まず「どんな人を採用したいのか」を具体的に言語化しましょう。年齢やスキルだけでなく、価値観や志向性まで含めたペルソナを設計します。「20代の営業経験者」では粗すぎます。「安定より成長を求めていて、大手の歯車になることに物足りなさを感じている20代後半の営業パーソン」くらいまで解像度を上げてください。
次に、自社の魅力を棚卸しします。ここでよくある失敗が、経営者や人事だけで考えてしまうことです。
NG例を挙げると、「風通しの良い職場です」「アットホームな社風です」。これ、どの会社も言っていますよね。求職者には何も刺さりません。
良い例は、現場の社員に「なぜこの会社に入ったのか」「なぜ辞めずに働き続けているのか」を聞いて、そこから出てきた生の言葉を魅力として言語化することです。「社長が週1で全社員と1on1をやっている」または「入社1年目は毎週、社長との1on1がある」。こういう具体的な事実こそが、他社にない魅力になるわけです。
STEP2|自社に合ったチャネルで継続的に情報発信する
整理ができたら、いよいよ発信です。代表的なチャネルはこのあたりです。
- 採用サイト、採用ピッチ資料
- note、オウンドメディア
- X(旧Twitter)、Instagram、TikTokなどのSNS
- 社員インタビュー記事
- 採用動画、YouTube
- プレスリリース、メディア露出
大事なのは、全部やろうとしないことです。ターゲットによって見ている媒体は違います。エンジニアを採りたいなら技術ブログやX、若手を採りたいならInstagramやTikTok、という具合に、ペルソナがいる場所を選んで集中しましょう。
そして、単発で終わらせないこと。これが1番重要です。
正直に言うと、僕が見てきた限り、採用広報で失敗する企業のほとんどは、内容が悪いのではなく『続かない』ことが原因です。noteを3記事書いて止まっている会社、ありませんか?更新が止まったメディアは、求職者に「この会社、大丈夫かな」という逆のメッセージを与えてしまいます。
週1本が無理なら月2本でいい。量や更新頻度より、まず「止めないこと」。継続こそが信頼をつくるということです。
STEP3|効果を振り返りながら改善を続ける
発信しっぱなしではダメです。定期的に振り返り、改善しましょう。
見るべき指標は、PVやフォロワー数だけではありません。
- 応募数、応募率
- 応募者の質(ターゲットに合う人からの応募の割合)
- 面接での「記事を読みました」という声の数
- 内定承諾率
- 入社後の定着率
ちなみに、僕がおすすめしたいのは、面接で「うちの発信、何か見ましたか?」と聞くことです。この質問への答えに、数字に表れない効果が一番よく表れます。。「noteの〇〇さんの記事を読んで応募しました」という声が出てきたら、その記事の方向性が正解だという証拠です。
採用広報は、すぐに成果が出る施策ではありません。半年、1年と続けて、じわじわ効いてくるものです。短期のPVに一喜一憂せず、長期的な視点で育てていきましょう。
採用広報を成功させるために押さえたいポイント
先にポイントを挙げてしまうと、成否を分けるのは「リアルさ」「社内連携」「無理をしない体制」の3つです。僕の経験上、うまくいかない会社は必ずこのどれかでつまずいています。
求職者目線でリアルな情報を発信する
良いことしか書いていない採用コンテンツは、読まれませんし、信じられません。断言します。
NG例は、笑顔の社員写真に「やりがいのある仕事です!」「成長できる環境です!」というコピーを載せただけの記事。求職者は、こういう「盛った」情報を見抜きます。むしろ警戒されます。
良い例は、仕事の大変さや課題まで含めて正直に伝えることです。「正直、立ち上げ期なので仕組みは整っていません。でも、だからこそ自分で仕組みをつくる面白さがあります」。こう書かれていたら、どうでしょうか。信頼できますよね。しかも、カオスな環境を楽しめる人だけが応募してくるので、ミスマッチも減ります。
コンテンツとしては、社員の1日密着、失敗談を含むプロジェクトの裏側、入社1年目のリアルな本音、といった企画が効果的です。キレイな建前より、多少泥臭くても本音。これが採用広報の鉄則です。
人事と広報が連携し、一貫したメッセージを届ける
意外と見落とされがちですが、採用広報がうまくいかない会社の多くは、社内の連携に問題があります。
人事は求人票で「安定した環境」を訴求しているのに、広報はSNSで「挑戦できるベンチャー気質」を発信している。こんなふうにメッセージがズレていると、求職者は混乱します。ひどい場合だと、面接で聞いた話と発信内容が食い違っていて、内定辞退につながることもあります。
だからこそ、採用コンセプトを1つに定め、人事も広報も経営層も、同じメッセージを発信することが大切です。「うちは何を約束できる会社なのか」を一言で言えるように、まず社内で握りましょう。採用広報の成果は、コンテンツの質よりも社内連携の質で決まると言っても過言ではありません。
必要に応じて外部パートナーと連携する
「重要なのはわかった。でも、うちにはやる人がいない」。そう思った方も多いのではないでしょうか。
実際、中小・ベンチャー企業では、人事も広報も兼任だらけで、採用広報にまで手が回らないのが現実です。頑張って始めても、日常業務に押されて更新が止まる。僕はこういうケースを山ほど見てきました。
そんなときは、外部のPR会社や採用広報の支援会社を頼るのも1つの手です。
外部パートナーを使うメリットは、単なる作業代行ではありません。第三者の目で自社の魅力を発掘してもらえること、そして「継続する仕組み」を強制的につくれることです。社内の人間には当たり前すぎて気づけない魅力を、外部の人間はすぐに見つけます。これは僕たちが日々実感していることです。
もちろん、丸投げはダメです。自社の想いや情報は自社にしかありません。あくまで主体は自社、外部は伴走者。この関係で連携するのが理想です。
採用広報を支援する会社は数多くありますが、得意分野や支援内容はさまざまです。自社に合ったパートナーを選ぶために、比較時に確認したいポイントをまとめたチェックリストをご用意しています。
PR会社選定チェックリストを無料で配布しています
自社に合うPR会社を選ぶ際の確認事項、商談で聞くべき質問、見積もり比較の視点をチェックリスト形式でまとめた資料です。これからPR会社の選定を進める経営者・広報担当者の方は、ぜひご活用ください。
採用広報に関するよくある質問
最後に、採用広報について僕がよく聞かれる質問に答えておきます。これから始める方がつまずきやすいポイントばかりなので、ぜひ目を通してみてください。
採用広報は誰が担当するべきですか?
人事と広報が連携して進めるのが理想ですが、中小・ベンチャーでは専任を置けないことがほとんどです。兼任で構いません。ただし、「オーナー(責任者)」だけは必ず1人決めてください。全員で少しずつやろうとすると、誰もやらなくなります。これは断言できます。社員数十名規模までなら、経営者自身が旗を振るのが1番うまくいきます。
採用広報と採用ブランディングの違いは何ですか?
採用ブランディングは「働く場としてどんなブランドを築くか」という戦略・考え方で、採用広報はその戦略を実行するための情報発信活動です。家づくりに例えると、ブランディングが設計図、広報が施工。設計図なしに施工を始めると、ちぐはぐな発信になってしまうわけです。
SNSだけでも採用広報はできますか?
始めることはできます。コストもかからないので、最初の1歩としてはアリです。ただ、SNSだけでは十分とは言えません。SNSは接点をつくる入口には向いていますが、企業理解を深めてもらうには情報量が足りないからです。SNSで興味を持ってもらい、noteや採用サイトでじっくり読んでもらう。この組み合わせで設計するのが正解です。
まとめ|採用広報は企業の魅力を伝え、採用力を高める第一歩
採用広報とは、企業の魅力や価値観を発信し、自社に合う人材から「選ばれる」ための活動です。売り手市場が続く今、求人票を出して待つだけでは、良い人材とは出会えません。
成功のポイントを振り返ると、こうなります。
- 採用ターゲットと自社の魅力を整理してから発信する
- ターゲットに合ったチャネルを選び、止めずに継続する
- 良い面だけでなく、リアルな情報を正直に伝える
- 人事と広報が連携し、一貫したメッセージを届ける
採用広報は、明日すぐに成果が出る魔法ではありません。でも、続けた会社と続けなかった会社の差は、1年後に必ず表れます。知名度で勝負できない中小・ベンチャーにとって、これほど費用対効果の高い投資はないと僕は思っています。
リソースやノウハウに不安があるなら、外部パートナーの力を借りることも視野に入れながら、まずは自社の魅力の棚卸しから始めてみましょう。それが、採用力を高める確かな第1歩になります。


























