スタートアップのためのPR会社
ベンチャー広報の野澤です。
今回は「BtoB広報」について書きます。
「うちはBtoBだから、広報は向いていない」。この言葉を、僕は何百回と聞いてきました。一般消費者向けの商品がないから、テレビにも雑誌にも取り上げてもらえない。だから広報は無駄だ、という理屈です。
断言しますが、これは誤解です。BtoB企業の広報は、BtoCと同じやり方が通用しないだけで、やり方さえ変えれば成果は出ます。しかも、競合他社が「うちはBtoBだから」と諦めてくれている分、先に動いた企業が圧倒的に有利になる領域でもあります。
僕はPR会社を15年以上経営する中で、たくさんのBtoB企業の広報を支援してきました。その経験から、BtoB広報の考え方と進め方をお話しします。
この記事の執筆者
野澤 直人(のざわ なおひと)
株式会社ベンチャー広報 代表取締役
ビジネス誌の編集責任者としてベンチャー経営者500人以上を取材後、海外留学関連のベンチャー企業で広報部門をゼロから立ち上げ。2010年に株式会社ベンチャー広報を創業し、以来スタートアップ・ベンチャー専門で400社以上の広報を支援。著書に『【小さな会社】逆襲の広報PR術』(すばる舎)。
BtoB広報とは?BtoC広報との決定的な違い
BtoB広報とは、法人向けのビジネスを行う企業が、メディアや社会に向けて情報を発信し、信用と想起を獲得していく活動のことです。
BtoCとの違いを整理すると、こうなります。
| 観点 | BtoC広報 | BtoB広報 |
| 狙う相手 | 一般消費者(不特定多数) | 意思決定に関わる少数の担当者・決裁者 |
| 求める反応 | 認知・購買(比較的短期) | 信用・想起(検討は数か月〜数年) |
| 主な媒体 | テレビ、女性誌、ライフスタイル系Webメディア | 業界紙・専門誌、経済紙、ビジネス系Webメディア |
| 効果の見え方 | 売上や問い合わせに比較的直結しやすい | 商談化率・失注理由の変化など間接的に表れる |
1番大事なのは「求める反応」の違いです。
BtoCなら「見た人が買う」という流れがありえます。でもBtoBでは、記事を読んだ担当者がその場で発注することはまずありません。数か月後、社内で「そろそろこの仕組みを入れよう」という話が出たときに、「そういえば、あの会社の記事を読んだな」と思い出してもらう。これがBtoB広報のゴールです。
つまり、BtoB広報は「今すぐ客」ではなく「そのうち客」に効く活動なんです。ここを理解しないまま始めると、3か月で「成果が出ない」と言って止めてしまうことになります。
BtoB企業こそ広報の効果が大きい理由
BtoB企業には、広報が効く構造的な理由が3つあります。
- 信用が発注の前提条件になる:高額で長期の取引ほど、「知らない会社」は候補にすら入りません。第三者であるメディアに紹介されることは、自社サイトで100回主張するより効きます
- 広告が効きにくい領域である:ターゲットが狭く単価も高いため、広告だけで信用まで作るのは困難です
- 採用にも直結する:BtoB企業は学生や求職者から見て「何をしている会社かわからない」と思われがちです。広報はここを埋めます(具体的な型は採用広報の事例5選で解説しています)
この点はBtoB企業こそ広報をやるべき理由にも書いていますので、あわせて読んでみてください。
BtoB広報が「うまくいかない」3つの原因
支援に入る前の企業を見ていると、つまずき方には共通のパターンがあります。
原因1|BtoCと同じ発想で、一般メディアだけを狙っている
テレビや一般紙にいきなり挑んで玉砕する、というパターンです。
部品メーカーや業務システムの会社が、いきなり全国ネットの情報番組を狙っても、まず通りません。視聴者の生活と接点がないからです。
BtoB広報の主戦場は、まず業界紙・専門誌です。ここは競合が少なく、記者も専門知識を持っているので、技術の話がそのまま価値として伝わります。地方に拠点がある企業なら、ブロック紙・地方紙も有力です。詳しくはBtoB企業こそ、ブロック紙・地方紙を攻略せよ!をどうぞ。
原因2|自社の技術を「そのまま」説明してしまう
技術力の高いBtoB企業ほど陥りやすい罠です。
「独自のアルゴリズムにより処理速度を30%改善」。社内では誇らしい成果ですが、記者から見れば「それが世の中の何を変えるのか」がわかりません。
記者が知りたいのは技術そのものではなく、その技術が解決する社会課題や、業界の変化です。「人手不足の物流現場で、1人あたりの作業時間が◯分減る」と言い換えられれば、記事になる可能性は一気に上がります。
主語を「自社」から「業界・社会」に置き換える。これがBtoB広報の翻訳作業です。
原因3|ネタがないと思い込んでいる
「新製品は年に1回しか出ないので、発信することがありません」。よく聞きます。
でも、発信できる材料は製品以外にいくらでもあります。次の章で具体的に挙げます。
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自社に合うPR会社を選ぶ際の確認事項、商談で聞くべき質問、見積もり比較の視点をチェックリスト形式でまとめた資料です。これからPR会社の選定を進める経営者・広報担当者の方は、ぜひご活用ください。
BtoB広報のネタの作り方7選
新製品がなくても発信は続けられます。BtoB企業が使えるネタの型を挙げます。
1|自社データを使った調査リリース
最も再現性が高いのがこれです。自社が持っている取引データや、顧客企業へのアンケートを集計して、業界の実態として発表する。
記者は常に「数字」を探しています。業界の実態を示すデータは、それ自体がニュースになりますし、後から別の記事の中で引用されることも多い。継続的に出せば「この分野の数字ならあの会社」という立ち位置がつくれます。
2|導入事例・顧客の成功事例
自社の製品の話は宣伝ですが、「顧客がどう変わったか」は取材対象になります。
ポイントは、取材に協力してくれる顧客をあらかじめリスト化しておくこと。記者から「実際に使っている企業を取材したい」と言われたときに即答できるかどうかで、企画が動くかどうかが決まります。この準備についてはBtoB企業広報の皆さん!「取材OKのユーザーリスト」用意してありますか?で詳しく書いています。
3|業界課題への見解・提言
法改正、人手不足、原材料高騰、DXの遅れ。自社が属する業界には必ず課題があります。
その課題に対して、現場を知る立場から見解を出す。記者は「業界の当事者のコメント」を必要としているので、こちらから提供すれば重宝されます。
4|技術・仕組みの解説コンテンツ
専門的すぎて一般には伝わらない技術も、噛み砕けば「知的に面白い話」になります。業界紙や専門誌には、そのまま企画として持ち込めます。
5|経営者の考え・創業の背景
BtoB企業は製品で目立ちにくいぶん、人で目立つ方法があります。経営者の経歴やものの見方は、ビジネスメディアが常に求めている題材です。
6|ニュースレターで関係をつくる
プレスリリースは「発表」ですが、ニュースレターは「読み物」です。すぐには記事にならなくても、記者に業界を理解してもらう土壌づくりとして効きます。BtoB企業こそ「ニュースレター」を活用しよう!もご覧ください。
7|ラウンドテーブル(記者向け勉強会)
記者を集めて、業界の動向や技術背景をレクチャーする少人数の会です。1回の記事化を狙うのではなく、継続的に相談してもらえる関係をつくるための施策です。やり方はBtoB企業こそ「ラウンドテーブル」を活用しよう!にまとめました。
BtoB広報の進め方【4ステップ】
STEP1|誰に何を思い出してほしいかを決める
最初に決めるのは「どの業界の、どの役職の人に、どんな場面で自社を思い出してほしいか」です。
「製造業の工場長が、生産管理の見直しを検討したときに思い出す会社になる」。ここまで具体化できると、狙う媒体もネタの方向性も自動的に決まります。
STEP2|狙う媒体をリスト化する
ターゲットが決まったら、その人が読んでいる媒体を洗い出します。業界紙、専門誌、業界団体の会報、専門Webメディア、地方紙、経済紙。まずは20〜30媒体をリスト化して、記事の傾向と記者名まで押さえておきましょう。
BtoBの場合、この地道なリストの質がそのまま成果になります。
STEP3|ネタを翻訳して届ける
前述のとおり、自社目線の情報を業界・社会目線に翻訳します。プレスリリースの書き方はプレスリリースの書き方を参考にしてください。
配信して終わりにせず、特に関係を作りたい記者には個別に連絡を入れる。BtoBは母数が少ないぶん、1対1のコミュニケーションが効きます。
STEP4|商談での変化を成果として測る
BtoB広報の成果を掲載件数だけで測るのは危険です。次のような指標も一緒に見てください。
- 商談時に「記事を見た」と言われた回数
- 指名での問い合わせ数、社名検索の増減
- 「知らない会社だから」という理由の失注の減少
- 採用応募者の質と、応募時の志望動機の変化
営業に「最近、お客さんから当社の記事の話が出ることはありますか」と聞いてみてください。数字に出る前に、現場の実感として先に表れます。
BtoB広報でよくある質問
BtoB企業でもテレビ取材は狙えますか?
狙えます。ただし、切り口は「製品」ではなく「社会の変化」になります。人手不足、物流問題、食品ロス、地方経済といった社会テーマの解説役として登場する形が現実的です。いきなり狙うのではなく、業界紙・専門誌での実績を積んでからのほうが通りやすくなります。
BtoB広報の成果はどれくらいで出ますか?
媒体への露出であれば数か月で作れます。ただ、商談や採用への波及を実感できるまでは半年から1年は見ておいてください。検討期間が長いビジネスなので、当然といえば当然です。
広報とマーケティングはどう分ければいいですか?
分けなくて構いません。むしろBtoBでは、広報とマーケティングを一体で設計したほうが成果が出ます。広報で作った第三者評価(メディア掲載)を、営業資料やサイトで使う。この連携ができている会社は強いです。
地方のBtoB企業で、担当者も兼任です。それでもできますか?
できます。むしろ地方は、地元メディアとの関係を作りやすいという利点があります。この点は「地方企業」「BtoB事業」「広報担当者兼任」の三重苦でも、広報で成果を出せます。に事例を交えて書いています。担当者がひとりの場合の優先順位はひとり広報とは?やることの優先順位と1人でも成果を出す進め方にまとめました。
外部のPR会社に頼むべきか、社内でやるべきか迷っています
判断基準は「メディアとの関係資産が社内にあるか」です。ゼロから作るなら、最初の1年だけ外部の力を借りて、型ができたら内製に戻すという進め方もあります。比較検討する場合はおすすめの広報・PR代行会社14社を比較が参考になるはずです。
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まとめ|BtoB広報は「思い出してもらう」ための投資
BtoB広報は、今日出した情報が明日の受注になる活動ではありません。検討が始まったその瞬間に思い出してもらうための、地味で長期的な仕込みです。
最後にポイントを整理します。
- 狙うのは一般メディアより、まず業界紙・専門誌・地方紙
- 技術の話は、業界・社会の課題に翻訳して伝える
- ネタは製品以外に7つの型がある。新製品がなくても続けられる
- 成果は掲載件数だけでなく、商談と採用の変化で測る
競合が「BtoBだから広報は関係ない」と思っているうちに動いた会社が、数年後に「この分野といえばあの会社」という位置を取ります。始めるなら早いほうがいい。まずは自社が持っているデータの棚卸しから着手してみてください。


























