スタートアップのためのPR会社
ベンチャー広報の野澤です。
今回は「採用広報の事例」について書きます。
採用広報の事例を調べると、有名企業の華やかな取り組みがずらりと出てきます。ただ、それを見て「うちには専任チームも予算もないし、無理だな」と閉じてしまった方も多いのではないでしょうか。
この記事では、公開されている取り組みを「型」で整理したうえで、中小・ベンチャー企業がその型をどこまで縮小して真似できるかまで書きます。真似すべきは規模ではなく、考え方と続け方だからです。
僕はPR会社を15年以上経営する中で、たくさんの中小・ベンチャー企業の広報を支援してきました。その経験も交えてお話しします。
この記事の執筆者
野澤 直人(のざわ なおひと)
株式会社ベンチャー広報 代表取締役
ビジネス誌の編集責任者としてベンチャー経営者500人以上を取材後、海外留学関連のベンチャー企業で広報部門をゼロから立ち上げ。2010年に株式会社ベンチャー広報を創業し、以来スタートアップ・ベンチャー専門で400社以上の広報を支援。著書に『【小さな会社】逆襲の広報PR術』(すばる舎)。
採用広報の事例を見るときの3つの視点
事例を並べる前に、見方をお伝えしておきます。ここを押さえておかないと、他社の取り組みを眺めて終わってしまうからです。
- どんな「型」か:オウンドメディアなのか、社内の情報公開なのか、メディア露出なのか。型が違えば必要な体制も違います
- 誰が、どれくらいの体制でやっているか:専任10人の施策を、兼任ひとりで真似することはできません
- 続いているか、なぜ終えたのか:始めた事例より、続いている事例と「畳んだ理由」のほうが学びが大きいです
そもそも採用広報とは何かを整理したい方は、先に採用広報とは?採用力を高めるために知っておきたい基本と進め方を読んでいただくと、この記事の内容が入りやすいと思います。
事例1|オウンドメディア型:メルカリ「mercan(メルカン)」
株式会社メルカリが運営するオウンドメディアがmercan(メルカン)です。社員インタビューや組織の動き、事業の裏側を継続的に発信しています。現在は同社の採用サイト内に置かれており、2026年7月末時点でも記事の更新が続いています(2026年8月時点で確認)。
この型のポイントは、「人」を軸にしていることです。事業紹介ではなく、そこで働く人が何を考え、どんな仕事をしているのかを積み上げていく。求職者は入社後の自分を具体的に想像できるようになります。
中小・ベンチャーが真似するなら
自社サイト内に「社員インタビュー」のページを1つ作るだけで十分です。記事数は月1本でも構いません。
大事なのは、質問を「志望動機」から始めないこと。「入社前に不安だったことは何ですか」「入社して裏切られた期待はありますか」といった質問のほうが、リアルな言葉が出てきます。読者が知りたいのは、きれいな話ではなく本音です。
事例2|オープン社内報型:SmartHR「SmartHRオープン社内報」
株式会社SmartHRが運営していた「SmartHRオープン社内報」は、社内報を誰でも読める形で公開するという取り組みでした。広報会議の取材記事によれば、開設の主なきっかけは採用広報で、編集長・副編集長に人事・広報を加えた4人体制、コンテンツはすべて内製という運用でした(広報会議・2020年9月6日公開)。
注目したいのは、同社が公開した休刊の記事です。2019年3月29日から2022年9月30日までの約3年半で109本を公開し、そこで一区切りとしています。その記事の中で、採用面の効果として「入社前の認知率63%」「2020年以降の入社者の97%が入社前に閲覧していた」という数字が示されています(さよなら、SmartHRオープン社内報。また逢う日まで!)。
休刊の理由も示唆に富んでいます。社内の情報がすでにさまざまなツール上でオープンになり、社員個人の発信も増えた結果、「社内報をオープンにしているからオープン」とは言いにくくなった、という趣旨のことが書かれています。
つまり、施策が失敗したから終わったのではなく、役割を終えたから畳んだわけです。採用広報は「一度始めたら永久に続けなければならない」と思われがちですが、そんなことはありません。目的が達成されたり、手段が変わったりしたら、やめる判断も立派な戦略です。
中小・ベンチャーが真似するなら
社内報がない会社なら、無理に作る必要はありません。すでに社内にあるもの、たとえば全社会議の資料や社内の表彰、月次の振り返りを、社外に出せる形に編集するところから始めましょう。
ゼロから新しいコンテンツを作ろうとすると続きません。「すでに社内にある情報を外向けに翻訳する」。これがひとり体制でも回せる唯一のやり方です。
PR会社選定チェックリストを無料で配布しています
自社に合うPR会社を選ぶ際の確認事項、商談で聞くべき質問、見積もり比較の視点をチェックリスト形式でまとめた資料です。これからPR会社の選定を進める経営者・広報担当者の方は、ぜひご活用ください。
事例3|テーマメディア型:サイボウズ「サイボウズ式」
サイボウズ株式会社が運営するサイボウズ式は、「新しい価値を生み出すチームのメディア」として、チームワークや働き方、多様性といったテーマを扱っています(2026年8月時点で更新継続を確認)。
この型の特徴は、自社の話を前面に出さないことです。扱うのは「働き方」という社会的なテーマで、そのテーマに向き合う姿勢そのものが、企業の価値観を伝えています。
求職者から見ると、「この会社はこういう問題意識を持っているのか」と理解できる。共感した人が集まってくる、という構造です。
中小・ベンチャーが真似するなら
メディアを立ち上げる必要はありません。経営者が自社の価値観について書いた記事を数本、コーポレートサイトに置くだけでも効果はあります。
ただし、テーマを選ぶときは注意してください。世の中で流行っているテーマではなく、自社が本気で向き合っている課題を選ぶこと。借り物のテーマは、続きませんし、読み手にも見抜かれます。
事例4|専門ブログ型:ベイジ「ベイジの図書館」
BtoBのWeb制作会社である株式会社ベイジが運営するベイジの図書館は、マーケティング、デザイン、テクノロジー、組織づくり、キャリアといったテーマの記事を発信しています。社員の日報を公開するなど、仕事の中身と考え方が外から見える状態をつくっているのが特徴です(2026年8月時点で更新継続を確認)。
この型が優れているのは、1つのコンテンツが集客と採用の両方に効く点です。実務に役立つ記事は見込み顧客に読まれますが、同時に「この会社はこのレベルで仕事を考えているのか」と、同業のプロフェッショナルにも伝わります。
BtoB企業や、専門性の高いサービスを提供している会社にとっては、最も費用対効果の高い型かもしれません。人数の少ない会社でも、質の高い記事が数本あれば成立します。
中小・ベンチャーが真似するなら
「自社の仕事の進め方」を1本書いてみてください。使っているツール、チェックリスト、失敗から学んだ手順。社内では当たり前のものほど、外から見ると価値があります。
BtoB企業の発信全般については、BtoB広報とは?成果が出ない原因とネタの作り方7選・進め方を解説もあわせてご覧ください。
事例5|メディア露出型:取材露出を採用に効かせる
ここまでの4つは、自社で発信する型でした。5つ目は、第三者であるメディアに取り上げてもらう型です。
僕たちが支援してきた企業でも、新聞やテレビ、ビジネス誌への露出をきっかけに応募が増えたケースは珍しくありません。求職者にとって、メディアに紹介されているという事実は、自社サイトの100の言葉より強い信用材料になります。
特に、知名度で大手に勝てない中小・ベンチャーにとっては効果が大きい。「聞いたことがない会社」から「新聞で見た会社」になるだけで、応募のハードルは大きく下がります。この考え方は中小ベンチャーの採用広報における「マスコミ広報」の効果と重要性に詳しく書いています。
中小・ベンチャーが真似するなら
露出は狙って作れます。まずはプレスリリースを継続的に出すところからです。書き方はプレスリリースの書き方を参考にしてください。
そして、掲載されたら必ず採用ページや募集要項に載せること。露出しっぱなしで終わらせている会社が本当に多い。せっかくの信用材料を、求職者が見る場所に置いてください。
5つの事例に共通する成功のポイント
型は違っても、共通しているものがあります。
| 共通点 | 具体的にどういうことか |
| 続いている | 数年単位で発信が積み上がっている。単発の施策ではない |
| 「人」か「考え方」が見える | 事業や製品の説明ではなく、働く人と価値観が伝わる中身になっている |
| 自社の実態に沿っている | 背伸びした理想像ではなく、実際にやっていることを出している |
| 目的が定まっている | 誰に何を伝えるかが明確で、役割を終えたら畳む判断もできる |
逆に言えば、この4つを外した施策は、どれだけ予算をかけても効きません。よくあるのが、立派な採用サイトを作って満足してしまうパターンです。作った時点がピークで、あとは情報が古くなっていくだけ。求職者は「更新が止まっている会社」として認識します。
中小・ベンチャーが今日から始める最小構成
「事例はわかったが、うちは何から手をつければいいのか」という方のために、最小構成をお伝えします。
- 社員インタビューを3本作る:入社理由、仕事の大変さ、それでも続けている理由。この3点を聞く
- 経営者の考えを1本書く:なぜこの事業をやっているのか、どんな仲間と働きたいのか
- その4本を求人票と募集要項からリンクする:作っただけで導線がない会社が非常に多いです
- 月1本のペースで追加する:更新が止まらないことのほうが、本数より大事です
この4ステップなら、兼任のひとり広報でも回せます。ひとり体制での優先順位のつけ方はひとり広報とは?やることの優先順位と1人でも成果を出す進め方をご覧ください。SNSを併用したい場合はSNSを使った採用広報術もご覧ください。
採用広報の事例に関するよくある質問
有名企業の事例は、中小企業には参考になりませんか?
参考になります。ただし、真似するのは規模ではなく設計です。「誰に何を伝えるために、どんな形式を選んだのか」を読み取ってください。専任チームがやっている量まで真似しようとすると、必ず折れます。
事例のような成果はどれくらいで出ますか?
半年から1年は見てください。発信を始めてすぐに応募が増えることはまれです。まずは「面接で自社の発信に触れる応募者が出てきたか」を最初の指標にすると、続けやすくなります。
採用広報のコンテンツは外注できますか?
できます。ただし、丸投げはおすすめしません。自社の想いや現場の情報は社内にしかないからです。取材と編集を外部に任せ、素材と方向性は自社が出す。この分担が現実的です。パートナー選びの観点はおすすめの広報・PR代行会社14社を比較にまとめています。
ネガティブなことまで書いて大丈夫ですか?
大丈夫です。むしろ書いたほうがいい。「立ち上げ期なので仕組みは整っていません」と正直に書けば、その環境を楽しめる人だけが応募してきます。ミスマッチによる早期離職のほうが、企業にとっても応募者にとっても損失が大きいわけです。
まとめ|真似すべきは規模ではなく「設計と継続」
採用広報の事例から学ぶべきは、派手な施策ではありません。
- 型は5つ(オウンドメディア/オープン社内報/テーマメディア/専門ブログ/メディア露出)
- 共通点は、続いていること、人と考え方が見えること、実態に沿っていること
- 中小・ベンチャーは、社員インタビュー3本+経営者の記事1本から始めれば十分
- 役割を終えた施策は畳んでいい。やめる判断も戦略のうち
他社の事例は、あくまで他社の答えです。自社の魅力は自社にしかありません。まずは社員に「なぜこの会社で働き続けているのか」を聞くところから始めてみてください。そこに出てくる言葉が、最も強い採用広報のコンテンツになります。


























