スタートアップのためのPR会社
ベンチャー広報の野澤です。
今回は「広報の効果測定とKPI」について書きます。
期末になると、広報担当者からこういう相談が増えます。「1年やってきたが、成果をどう説明すればいいかわからない」「来期のKPIを出せと言われたが、何を置けばいいのか」。
広報は、営業のように月次で数字が積み上がる仕事ではありません。だから測りにくい。測りにくいから評価されない。評価されないから予算がつかない。この連鎖で苦しんでいる担当者を、私は何人も見てきました。
この記事では、広報のKPIをどう決めるか、何をどう測るか、そしてそれを年間広報計画にどう落とし込むかを、順番に整理します。
この記事の執筆者
野澤 直人(のざわ なおひと)
株式会社ベンチャー広報 代表取締役
ビジネス誌の編集責任者としてベンチャー経営者500人以上を取材後、海外留学関連のベンチャー企業で広報部門をゼロから立ち上げ。2010年に株式会社ベンチャー広報を創業し、以来スタートアップ・ベンチャー専門で400社以上の広報を支援。著書に『【小さな会社】逆襲の広報PR術』(すばる舎)。
広報の効果測定はなぜ難しいのか
最初に、難しさの正体をはっきりさせておきます。ここを誤解したまま指標を置くと、あとで苦しくなります。
成果が出るまでに時間がかかる
広報は、動き出してから成果が見えるまで半年から1年かかります。メディアとの関係をゼロから作る場合はなおさらです。
この期間、社内では「あの人は何をやっているんだろう」と思われます。担当者本人も不安になる。だからこそ、露出が出る前の段階で見える指標を置いておく必要があるのです。
広告換算値(AVE)をそのまま使ってはいけない
掲載された記事の面積を広告料金に換算する「広告換算値」は、いまだによく使われています。金額で出るのでわかりやすい。経営層にも通りやすい。
ただし、これを主要KPIに据えるのはおすすめしません。理由は3つです。
- 広告と報道では、読み手の受け取り方がまったく違う。同じ面積でも価値は同じではない
- 記事の中身が反映されない。好意的な記事も批判的な記事も、同じ金額になる
- 金額を大きく見せようとすると、狙うべきでない媒体を数で狙う動きにつながる
参考指標として添えるのは構いません。しかし「今期は広告換算で◯◯万円でした」で報告を終えてはいけない、というのが私の考えです。この問題については「広報PRの効果測定はどうあるべきか」問題でも書いています。
広報のKPIの決め方
では何を置くか。順番があります。
KPIは3層に分けて置く
広報のKPIがうまくいかない最大の原因は、性質の違う指標を1つの表に混ぜてしまうことです。次の3層に分けてください。
- 活動KPI|自分でコントロールできる。プレスリリース配信数、メディアへのアプローチ件数、メディアリストの拡充数、取材対応件数
- 成果KPI|活動の結果として出る。掲載件数、狙った媒体での掲載、キーメッセージが載った割合、テレビ露出
- 事業KPI|経営に効いたかどうか。指名検索数、サイト流入、問い合わせ数、採用応募数
活動KPIは100%自分の責任、成果KPIは半分、事業KPIは他部署との共同責任。この切り分けを最初にしておくと、「掲載が取れなかったのは誰のせいか」という不毛な議論を避けられます。
立ち上げ期は活動KPIの比重を高く、軌道に乗ったら成果KPI・事業KPIへ寄せていく。これが現実的な設計です。
なお、活動KPIの中心になるプレスリリースは、本数だけを追うと中身が落ちます。記者に届く書き方はプレスリリースの書き方|記者に届く文章にするための基本構成と考え方にまとめています。
KGIから逆算する
指標は、思いつきで並べるものではありません。会社が何を達成したいのか(KGI)から逆算します。
たとえばこうです。
- 採用を強化したい → 求職者が見る媒体での露出、採用応募数の変化
- 資金調達を控えている → 投資家が読むビジネス媒体での露出、経営者インタビュー
- BtoBの問い合わせを増やしたい → 業界専門媒体での導入事例、指名検索数
- 新規事業の認知を取りたい → 一般媒体・テレビでのリーチ
同じ「掲載1件」でも、狙いによって価値はまったく違います。目的が決まらないうちにKPIを決めようとすると、必ず「掲載件数」に落ちます。
中小・ひとり広報で現実的な指標の置き方
ここは正直に書きます。指標は3つまでにしてください。
ひとりで広報を回している状況で、10個の指標を毎月集計するのは無理です。集計そのものが仕事になってしまい、本来の広報活動が止まります。
おすすめは、活動KPIから1つ、成果KPIから1つ、事業KPIから1つ。たとえば「メディアへのアプローチ件数」「狙った媒体での掲載件数」「指名検索数」の3つです。これなら毎月15分で集計できます。
ひとり広報の優先順位のつけ方はひとり広報とは?やることの優先順位と1人でも成果を出す進め方にまとめています。
やりがちな失敗
- 掲載件数だけを置く|件数を追うと、狙うべきでない媒体まで数に入れるようになります
- 媒体の大小を見ない|全国紙1本と個人ブログ1本を同じ1件と数えていないか
- 初年度から事業KPIだけを置く|露出が出る前に評価期限が来て、担当者が潰れます
- 誰も見ないレポートを作る|集計に時間をかけるほど、本来の活動時間が減ります
サービス資料を無料で配布しています
広報PR戦略の策定からKPIの設定、広報計画の策定まで、当社の支援内容と料金プラン、支援事例をまとめた資料です。広報の体制づくりを検討されている方は、ぜひご活用ください。
広報の効果測定|指標の例
実際に何を測るか、具体的に並べます。
露出量を測る
- 掲載件数(媒体種別ごとに分ける。テレビ/全国紙/業界紙/Webなど)
- 媒体のグレード(狙っていた媒体かどうかを◎○△で分類する)
- 推定リーチ(発行部数、月間PVなど。公表値がある媒体のみ)
件数を数えるなら、必ず媒体種別で分けてください。合計だけでは、中身がわかりません。
露出の「質」を測る
ここを測っている会社は多くありません。だからこそ差がつきます。
- キーメッセージの掲載率|自社が伝えたかった一文が、記事に入っていたか
- 論調|好意的/中立/批判的の3分類
- 扱いの大きさ|単独記事なのか、一覧の中の1社としての言及なのか
たとえば「掲載10件、うちキーメッセージが入ったのは6件」と報告できれば、次に何を改善すべきかがはっきりします。件数だけの報告では、次の打ち手が出てきません。
行動の変化を測る
事業KPIに近い層です。
- 指名検索数|社名・サービス名での検索がどう変化したか。広報の効果がもっとも素直に出る指標です
- サイトへの流入|掲載日の前後でセッションがどう動いたか
- 問い合わせ数|報道をきっかけにした問い合わせ。フォームに「当社を知ったきっかけ」の項目を足すと追えます
- 採用応募数・辞退率|採用広報を実施している場合
- 登壇・寄稿の依頼件数|露出が信用に変わったサイン
無料で測れるものから始める
効果測定ツールの導入を検討される方も多いのですが、まずは無料で測れるもので十分です。
- Google Search Console|指名検索の表示回数・クリック数の推移
- Google アナリティクス|掲載日前後の流入、参照元
- Google アラート|社名・サービス名の言及を拾う
- スプレッドシート|掲載一覧を1行1件で蓄積する
掲載一覧のスプレッドシートは、地味ですが一番効きます。日付/媒体名/媒体種別/記事タイトル/URL/狙い通りか/キーメッセージの有無。この7列を1年貯めると、翌年の計画がまったく違うものになります。
測定結果を年間広報計画に落とし込む
測って終わりでは意味がありません。翌期の計画に反映して初めて回り始めます。
年間広報計画に入れる6つの項目
当社がクライアントの広報計画を策定するときも、この順番で組み立てています。
- 1. 広報の目的|経営計画のどの課題に効かせるのか
- 2. コミュニケーションターゲット|誰に届けたいのか
- 3. キーメッセージ・PR切り口|何を伝えるのか
- 4. ターゲット媒体|どの媒体に載りたいのか
- 5. 施策と月別スケジュール|いつ何をするのか
- 6. KPIと予算・体制|何で測り、いくらで、誰がやるのか
順番が大事です。1から4が決まらないうちに5の施策を並べると、「やること表」にしかなりません。
月別カレンダーの作り方
スケジュールは、この順で埋めていくと早いです。
- まず確定しているものを置く|新商品の発売、決算発表、周年、イベント、採用の時期
- 次に季節ネタ・記念日を重ねる|自社の事業と接続できる時期はどこか
- 最後に媒体の締切から逆算する|月刊誌は2〜3か月前、週刊誌は数週間前が目安
3番目を忘れると、「発売日にリリースを出したのに雑誌に間に合わなかった」ということが起きます。広報のカレンダーは、事業のカレンダーより前倒しで動くと覚えておいてください。
埋まらない月が出てきたら、それは発信するネタが足りないというサインです。ネタの見つけ方は広報担当のお悩みあるある「ネタがない!」にどう向き合うかを参考にしてください。
そのまま使える項目一覧
計画書のフォーマットは凝る必要がありません。次の項目が埋まっていれば、社内で通ります。
- 広報の目的(経営課題との紐づけ)
- 今期のKGIと、広報が担う範囲
- コミュニケーションターゲット
- キーメッセージ(3つ以内)
- ターゲット媒体リスト(◎○△の3段階)
- 月別の施策カレンダー(12か月分)
- KPI(活動/成果/事業から各1つ)
- 予算と体制(内製・外注の切り分け)
- 前期の振り返り(掲載実績と、うまくいかなかった点)
経営層への報告のしかた
測定と計画がそろっても、伝わらなければ予算はつきません。
月次レポートに載せる3つ
長いレポートは読まれません。次の3つで十分です。
- 今月の掲載|媒体種別ごとの件数と、特筆すべき1〜2本の中身
- 指標の推移|設定した3つのKPIの、前月比・前年同月比
- メディアからのフィードバック|断られた理由、興味を持たれた切り口
3つ目を入れている会社はほとんどありませんが、経営層にとっては一番おもしろい情報です。「市場からどう見られているか」が生で入ってくるのは、広報にしかできない報告だからです。
成果が出ていない月の説明のしかた
掲載がゼロの月は必ずあります。そのときに黙ると、信頼を失います。
報告すべきは「何件アプローチして、どういう理由で見送られたか」です。活動KPIを置いておく意味はここにあります。動いた事実と、断られた理由を示せれば、ゼロの月も報告になります。
そして、断られた理由が溜まってくると、切り口の修正点が見えてきます。最初に立てた広報戦略は仮説にすぎません。メディアからのフィードバックをもとに戦略と戦術を更新し、素早く回していくことが結局は近道です。
広報のKPI・効果測定に関するよくある質問
広報のKPIは何件くらい設定すべきですか?
3つが目安です。活動KPI・成果KPI・事業KPIから1つずつ。多くしても集計が負担になるだけで、改善にはつながりません。
広告換算値は使ってはいけないのですか?
参考値として添えるのは構いません。ただし主要KPIには置かないでください。記事の中身や論調が反映されないため、数字が大きくなっても実態と乖離することがあります。
立ち上げ期は何を指標にすればいいですか?
活動KPIを中心にしてください。メディアリストの作成数、アプローチ件数、プレスリリースの配信数など。露出が出るまでの数か月を、活動量で説明できる状態にしておくことが大切です。
効果測定ツールは導入すべきですか?
露出量が増えてクリッピングが手作業で追えなくなってから検討すれば十分です。それまではSearch Console・アナリティクス・スプレッドシートで測れます。
年間広報計画はいつ作るべきですか?
事業計画が固まるタイミングに合わせてください。広報計画は事業計画から逆算するものなので、先に作っても後から作り直すことになります。
KPI設計から相談できますか?
できます。当社のリテナー契約では、最初の1か月でヒアリングと報道分析・競合調査を行い、そのうえで広報の目的とKPIの設定、キーメッセージとPR切り口の開発、ターゲット媒体の整理、広報計画の策定までを行っています。
まとめ|測れないのではなく、測る対象を決めていないだけ
広報は測れない、とよく言われます。しかし実際には、何のための広報かが決まっていないから、測る対象が決まらないというだけのことが多い。
最後にポイントを整理します。
- KPIは活動/成果/事業の3層に分け、責任範囲を切り分ける
- 指標は3つまで。集計が仕事になっては本末転倒
- 広告換算値は主要KPIにしない。参考値に留める
- 件数だけでなく「キーメッセージが載ったか」を測ると、次の打ち手が見える
- 年間計画は目的→ターゲット→メッセージ→媒体→施策→KPIの順で組む
- 掲載ゼロの月も、活動量と断られた理由を示せば報告になる
広報を立ち上げたばかりで、そもそも何を目標にすればいいかわからないという段階であれば、広報の立ち上げ方を解説|ゼロから始める手順と最初の90日ロードマップから読んでみてください。KPIの設計や広報計画の策定からご相談いただくことも可能です。
PR会社に継続して任せる場合は、KPIの設計と毎月の報告のしかたを契約前に確認しておいてください。契約形態と費用の考え方はリテーナー契約とは?PR会社の契約形態と費用の考え方・スポット依頼との違いで解説しています。
当社の支援内容はリテナー契約(広報の業務委託)、内製化に向けた伴走はコンサルティング契約のページをご覧ください。



























