スタートアップのためのPR会社
ベンチャー広報の野澤です。
今回は「メディアリレーションズ」について書きます。
広報の仕事を説明するときに、必ず出てくる言葉です。ただ、実際に何をすることなのかは、意外と説明されません。「記者と仲良くなること」と言われても、どう仲良くなるのかがわからない。
私はビジネス誌で編集責任者をしていたので、記者の側から広報担当者を見ていた期間があります。そのうえで広報の支援側に回って400社以上を見てきました。両側から見てはっきり言えるのは、記者と関係ができている会社とできていない会社では、同じネタを出しても結果がまるで違うということです。
この記事では、メディアリレーションズとは何か、何から始めればいいのか、そしてやってはいけないことを整理します。
この記事の執筆者
野澤 直人(のざわ なおひと)
株式会社ベンチャー広報 代表取締役
ビジネス誌の編集責任者としてベンチャー経営者500人以上を取材後、海外留学関連のベンチャー企業で広報部門をゼロから立ち上げ。2010年に株式会社ベンチャー広報を創業し、以来スタートアップ・ベンチャー専門で400社以上の広報を支援。著書に『【小さな会社】逆襲の広報PR術』(すばる舎)。
メディアリレーションズとは?広報の中での位置づけ
メディアリレーションズとは、記者や媒体と継続的な関係を築き、維持していく活動のことです。「メディアリレーション」と単数で書かれることもありますが、同じ意味で使われています。
広報の仕事は「情報を出すこと」だと思われがちですが、出した情報が届く相手を持っていなければ、出しても何も起きません。その相手を作る活動がメディアリレーションズです。
メディアリレーションズは「記者と継続的な関係を作る活動」
具体的には、記者が誰で、何を担当していて、どんな記事を書く人なのかを知り、こちらの情報を必要なタイミングで渡せる状態を作ることです。
一度名刺交換をして終わりではありません。名刺交換は接点であって、関係ではないというのが実感です。年に何度かやり取りがあって、向こうがこちらの会社を思い出せる状態になって、はじめて関係と呼べます。
プレスリリース配信との違いは「一度きりか、続くか」
プレスリリースの配信は、発表のたびに行う単発の行為です。配信サービスを使えば、担当者が誰であっても同じ結果になります。
メディアリレーションズは逆で、積み上げた分だけ差がつきます。同じプレスリリースでも、送り先に「知っている記者」が含まれているかどうかで、読まれる確率が変わります。プレスリリースの書き方を磨くことと、届ける相手を持つことは、どちらが欠けても成立しません。
広告と違い、載せるかどうかを決めるのは記者
ここが広告と決定的に違う点です。広告は枠を買えば必ず載りますが、報道は載せるかどうかも、どう書くかも記者が決めます。
だからこそ、こちらにできるのは「判断してもらえる材料を、判断できる人に、判断できるタイミングで渡す」ことだけです。メディアに取り上げられること自体についてはパブリシティとは?広告との違いと、掲載を獲得する方法・ペイドパブリシティの注意点で整理しています。
なぜ関係づくりが掲載数を変えるのか
精神論の話ではありません。記者の仕事の進め方を知ると、理由がはっきりします。
同じネタでも、知っている記者に届くかで結果が変わる
記者のメールボックスには、毎日大量のプレスリリースが届きます。全部は読めません。では何から読むかというと、件名と、差出人です。
知らない会社から届いた知らない件名のメールと、過去に一度やり取りした広報担当者から届いたメールでは、開封される確率が違います。内容の良し悪し以前の話です。
記者は「信頼できる情報源」を手元に置きたい
記者の側にも事情があります。担当領域について書くとき、業界の動向を確認できる相手が必要です。記事にしなくても、背景を教えてくれる人がいると助かる。
私が編集側にいたときも、何人か「この分野ならこの人に聞けばわかる」という広報担当者がいました。その人たちの会社は、結果として記事に登場する回数が多かった。意図的にえこひいきしたわけではなく、取材の起点になる回数が多いと、自然に登場する回数も増えるのです。
価値があるのは1回目の掲載より、2回目以降が取りやすくなること
広報の成果を1回の掲載で見てしまうと、メディアリレーションズは割に合わない活動に見えます。手間の割に、すぐには掲載が増えないからです。
ただ、1回目の取材がうまくいくと、2回目以降のハードルは大きく下がります。記者の側に「この会社は取材しやすい」「話が早い」という認識ができるからです。この蓄積が効いてくるまでに、だいたい半年から1年かかります。
メディアリレーションズの進め方【5ステップ】
何から手をつけるか、順番に整理します。
STEP1|自社が出られる媒体を絞る
最初にやるのは、記者を探すことではなく、自社が載る可能性のある媒体を絞ることです。
ここで多いのが、知名度の高い媒体から並べてしまう失敗です。全国紙とテレビキー局を目標に置くと、ほとんどの会社は何も起きないまま終わります。業界紙、専門誌、Webメディア、地方紙のほうが、最初の掲載は取りやすい。
リストの作り方はメディアリストの作り方 大切な最初の一手は社内にあったで具体的に解説しています。
STEP2|媒体ではなく記者個人を調べる
媒体を絞ったら、次はその媒体の中で誰が自社の領域を担当しているかを調べます。ここを飛ばして編集部宛に送っても、担当にたどり着きません。
調べ方はシンプルで、署名記事を読むことです。
- 過去1年でその分野の記事を書いているのは誰か
- どういう切り口を好むか(事例重視か、データ重視か、人物重視か)
- 自社の競合をすでに取り上げていないか
競合が取り上げられているなら、その記者はその領域に関心があるということです。嫌がる会社もありますが、私はむしろ狙い目だと考えています。
STEP3|最初の接点を作る
接点の作り方は、プレスリリースを送る以外にもあります。記者に直接会いに行く「メディアキャラバン」はその代表で、メディアキャラバン3つのパターン こんな時何を話しているの?で実際のやり方を紹介しています。
記者クラブに資料を持ち込む方法もありますが、これは業種と内容によります。記者クラブとは?種類と仕組み、企業が使えるケース・使えないケースを先に読んでから判断してください。
STEP4|ネタがない時期にも接点を切らさない
ここが最も差がつくところです。多くの会社は、発表があるときだけ連絡します。すると記者から見ると「売り込みのときだけ来る人」になります。
発表がない時期にできることはあります。
- 業界の動きについて、自社の見解を短くまとめて送る
- 記者が書いた記事について、現場からの感想を伝える
- 自社で取ったデータを、記事にするかは任せる前提で共有する
いずれも「載せてください」と言わないのがポイントです。情報提供として渡す。これを続けている会社は、何かあったときに記者のほうから連絡が来るようになります。
STEP5|掲載後のフォローまでを一周にする
掲載されたら終わり、ではありません。お礼を伝えるのは当然として、掲載内容に事実誤認がなかったか、追加で出せる情報はないかを伝えておくと、次につながります。
掲載された記事を自社でどう使うかについてはマスコミ露出の成果を最大限に活かす「報道実績の二次利用」にまとめています。転載の可否は媒体ごとに違うので、必ず確認してください。
やってはいけないこと
ここからは、記者側にいたときに「この広報担当者とは距離を置こう」と思った行動です。悪気なくやってしまっているケースがほとんどです。
全員に同じ内容を一斉送信する
宛名が「ご担当者様」のまま一斉配信されたメールは、ほぼ読まれません。送った側は「100社に送った」と報告できますが、実際には0社に届いているのと変わらない。
全員分を個別に書くのは無理なので、本気で狙う5社だけは個別に書くという配分をおすすめしています。残りは一斉でかまいません。
自社の都合だけで連絡する
媒体には締切があります。日刊紙の夕方、週刊誌の校了前に電話をかけると、それだけで印象が悪くなります。
電話をかける時間帯についても同じです。媒体ごとに動く時間が違うので、最初に聞いておくのが安全です。メールなら相手の都合で読めるので、関係ができるまではメール中心で問題ありません。
掲載を催促する、原稿チェックを求めすぎる
取材を受けたあとに「いつ載りますか」と何度も聞くのは逆効果です。掲載時期は記者が決められないことも多く、答えようがない質問だからです。プレスリリースを送ったあとの確認電話についても、「プレスリリースは見てもらえましたか?」の電話は、百害あって一利なしで同じことを書いています。
原稿確認も同様です。事実関係の確認はお願いできますが、表現や論調に手を入れようとすると関係が切れます。ここは広報側が社内を説得すべき場面で、考え方は取材記事の事前確認は、百害あって一利なしにまとめています。
一度断られた記者をリストから外す
断られたのは、今回のネタがその記者の関心と合わなかっただけです。会社そのものを否定されたわけではありません。
むしろ、断ってきた記者は返信をくれた記者でもあります。次のネタのときに「前回はタイミングが合いませんでしたが」と送れる相手が増えたと考えるほうが現実的です。
ひとり広報でもできる関係づくりの型
ここまで読んで「そこまで手が回らない」と感じた方のために、最小限の型を示します。
月に何人と接点を持つかだけ決める
目標を掲載件数で置くと、コントロールできないので続きません。自分で動かせる数字にします。
月に3人の記者と新しく接点を持つ、と決めるだけで十分です。年間で36人。これを2年続けると、業界内でかなりの関係網になります。指標の置き方は広報の効果測定とKPIの決め方で詳しく整理しています。
社長を出す場面を選ぶ
ベンチャーの場合、社長が出るかどうかで記者の反応が変わります。ただし毎回出す必要はありません。
経営判断や業界の見通しを聞きたい取材では社長、商品や技術の詳細を聞きたい取材では担当者、と分けるほうが、どちらの取材も深くなります。
記者が取材しやすい資料を手元に置く
問い合わせが来てから資料を作り始めると、記者の締切に間に合いません。会社の基本情報、数字、写真を一式そろえておくと、対応速度が上がります。
何をそろえるかは「ファクトブック」と「プレスキット」の違いと作り方のコツを参考にしてください。
PR会社に依頼する場合、何を見ればいいか
メディアリレーションズは、PR会社に依頼できる業務の中心でもあります。ただし会社によって中身がかなり違うので、見るべき点を挙げます。
「メディアとのコネクションがあります」の中身を聞く
どのPR会社も言うフレーズです。確認すべきなのは、それが会社のものか、担当者個人のものか、そして現在も生きているかです。
「5年前に取材してもらった」は関係とは言えません。直近1年でどの媒体の誰とやり取りがあるかを聞くと、実態がわかります。
営業担当ではなく、実働の担当者が記者と話しているか
提案に来た人と、実際に動く人が別、というのはよくあります。契約前に実働担当者と話させてもらってください。
あわせて、その担当者が何社を同時に見ているかも聞いてください。当社の場合は1人あたり3〜4社です。担当する社数が多いほど、1社あたりに割ける時間は減ります。
契約が終わったときに自社へ関係が残る形か
PR会社が記者とのやり取りを全部抱えてしまうと、契約終了と同時に関係がゼロに戻ります。これは依頼する側にとって損です。
取材の場に自社の担当者も同席する、メディアリストを自社でも持つ、といった形にしておくと、支援が終わったあとも資産が残ります。当社がコンサルティング契約で広報機能の内製化を掲げているのも同じ理由です。
契約の形や費用の考え方はリテーナー契約とは?PR会社の契約形態と費用の考え方・スポット依頼との違いに、会社の選び方はおすすめの広報・PR代行会社14社を比較にまとめています。
メディアリレーションズに関するよくある質問
当社が継続支援の中でどこまで対応しているかは広報の業務委託(リテナー契約)のページにまとめています。
記者の連絡先はどうやって調べますか?
媒体の編集部宛の連絡先は公開されていることが多いので、まずはそこから担当者につないでもらうのが基本です。署名記事にSNSのアカウントが紐づいている記者も増えました。名刺交換の機会があれば、そこで直接いただくのが一番確実です。
中小企業でも大手媒体の記者と関係を作れますか?
作れます。ただし順番があります。いきなり全国紙の記者に連絡するより、業界紙や専門メディアで実績を作ってからのほうが早い。記者は他媒体の記事を見ているので、どこかに載っていること自体が信用になります。
どのくらいの期間で成果が出ますか?
最初の掲載までは数か月、関係が継続的に効いてくるまでは半年から1年が目安です。当社の継続契約を6か月以上でお願いしているのも、この期間が必要だからです。
広報担当が代わったら関係はゼロに戻りますか?
引き継ぎ方によります。メディアリストと過去のやり取りの記録が社内に残っていれば、新任の担当者が挨拶に回ることで引き継げます。前任者の頭の中にしかない状態だと、かなりの部分が失われます。
会食や手土産は必要ですか?
必須ではありません。媒体によっては、利害関係を避けるために飲食の提供を受けないルールを設けているところもあります。無理に設定するより、取材しやすい資料を整えるほうが喜ばれます。
まとめ|目的は「一度載ること」ではなく「次も載る状態」
メディアリレーションズは、短期で成果が見える活動ではありません。それでも取り組む価値があるのは、一度作った関係が、その後の広報活動すべての効率を変えるからです。
最後に要点を整理します。
- 媒体の知名度ではなく、自社が載る可能性のある媒体から絞る
- 媒体ではなく記者個人を見る。署名記事を読む
- 発表がない時期の接点が、いちばん差がつく
- 一斉送信と催促は、関係を壊す側に働く
- 指標は掲載件数ではなく、自分で動かせる接点の数で置く
当社はスタートアップ・ベンチャー専門で400社以上の広報を支援してきました。自社の場合どの媒体から狙うべきか、といった段階からご相談いただけます。



























